夜の砂漠と憧れの女(ひと)

砂漠と星空は
どうしてああも相性がいいんだろう?
青い海に、緑なす森
みながひたむきに生きてるささやかな町
どれも星に抱かれるにふさわしいけれど
果てなく広がる厳かな静けさには
勝てない
そこでは神秘な光の
その照度にだけ時が宿っている
もしそこに立つならば
人はそこに己の真の故郷を見るだろうか

胸の中で、ずっとずっと
そんな場所を抱いていたような気がする
たとえば現実の母親は
『母』なる語のもつ深みからは程遠くて
彼女からありあまる活力を貰っておきながら
都合よく部屋に引っ込んでは夜の砂漠を想うのだった
僕はきらびやかに星々を纏った宮殿を見やる
そこには一人の妙齢のお姉さんが住んでいて
彼女は『母』のように温かく深く
また『少女』のように奥ゆかしいはにかみ屋でもある
ただ彼女との距離だけを感じていた
いつかは彼女みたいな女(ひと)に出逢うんだ
そう祈りながら、夜の砂漠から彼女から
あまりにかけ離れた日々をやり過ごすように生きてきた

けれどいつ頃からか
いやいやそんな女(ひと)なんていないっしょ(笑)!って
そう自分に突っ込んでいる自分がいることに気づいた
でもそれがいつくらいのことだったかすら
僕はもうとんと思い出せない
瑞瑞しい幻想をひたむきに抱いていた
痛々しくも純真な青春はいつの間にか去っていた

でも僕はこれからも
甘くて淡いあの光の感触に
思い出すように耳を澄ませ続けることだろう


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