葉擦れを聞く

葉擦れが聞こえてきたとき、あっ、けっこう強く風吹いてたんだと、彼女は気づき思った。風は大地を吹き渡るー吹き”渡る”とは何だろ?まるで人だと彼女は思う。といって彼女がその折り感じたのは、たとえば見えない人型の精霊が移動しているのだというようなことではなかった。漠とした、しかしたしかな意思のようなものの迫り来たりをこそ、彼女はひとえに感じたのだった。〈彼〉はどこか遠くの、どこでもないような場所にいながらにして彼女のその、澄んだ湖面のような瞳からいくらか離れた、ありふれた一本の木の上で揺れているかのようだった。いまや「1」が問題だった。木々の葉擦れから”あの木の葉擦れ”へ。世界がそこへと凝集していた。世界のあまねく音色も色彩も、みんなあの、私からいくらか離れたあの木の上の、整然と統一された無数の、ささやかな緑の1つ煌めきとして揺れているのだとそう思いながら、そんな自分もまた揺れている、そんな気がした。哀しいくらいに陽が淡くなってきたから、もうそろそろ行かなくてはと、彼女は思った。

(”いまや「1」が問題だった。”は、悪い意味で飛躍的にすぎるかも。とりあえず投稿したかったので急いで書きましたが、違うバージョンを帰宅後書くかもです。)


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